白樺プロジェクト 里山部の視点から。ADWご覧の方へ、キコリの補足説明版です。
しみずです。
2019年6月19日から旭川デザインウィーク(以下ADW)という、いわば家具のお祭りが旭川デザインセンターで開催されております(23日まで)。多数の家具職人さんが自慢の家具を公開しております。 無料ですので、是非足を運んでいただきたい。
里山部では、『里山から家具をつくる!』ということで、SKYプロジェクトを始動させたのが、2017年9月7日。普通のミズナラを伐採し、その後、旭川大学図書館に机の脚として生まれ変わりました。大きな木をみんなで取り合うのではなくて、身近な木から考えるモノづくりという視点から、旭川材できちんと旭川の家具ができました。メディアの協力もあり、結構注目されたと思います。
あの活動を通して、里山の木のポテンシャルを改めて確信。無駄にしてんなよ!ということでかなり熱く走らせていただきました。
そうして、さらに多方面の方々(キコリ、家具職人、クラフト職人、建築家、デザイナー、大学、学生、行政関係などなど)を巻き込みグレードアップした『白樺プロジェクト』が立ち上がりました。
旭川デザインセンターでは、『白樺プロジェクト』の成果発表の場になっております。
後ろのスツールみて、しびれて帰ってください笑
さぁ、その白樺プロジェクトの素晴らしい点を紹介していきます。
1、山主がわかる。キコリがわかる。
この木、どこの木。伐られた山はその後どうなったの。誰が伐ったの。すべてわかる木材です。そしてその後の山に遊びに行けるという。
いわば、地域認証・キコリ認証の木材です。
地域の木が伐られるということは、多少なりともキコリ一人の問題・責任ではありません。
地域の景観が変わりますし(はげ山にされたらみすぼらしくなりますね)、その山で生きる生物たちにも多少なりとも変化を及ぼします。
ですので、生き物の適応力を超えないように、木々の成長するスピードを超えないように伐って、下界に木を届ける必要が今の時代にはとても大切です。
これって、言葉にしたら当たり前のように聞こえますが、実践できているところって少ないです。
様々な研究者や、林業者がいますが、『生物研究者の属性をもつキコリ』っていないと思います。
僕は今コウモリ研究所をやっております。『コウモリの保護を訴えるため、林業を知り。この林業ではアカン。と思って、自分でコウモリも山も保全できつつ、暮らしに木を提供できるスタイルを確立しないといけない』という使命感から今の里山部をやりはじめました。
木が無いと仕事がない林業に、今はどんどん木を伐りまくって自分たちの首をしめ、次世代には価値が薄い山林しか残らないのではないかと危惧しております。
こうしないために、ちゃんと山に向き合えるキコリが、旭川にはぽつんといます。
そういう、キコリが、家具材になる木を提供できるというのは、未来にちゃんと責任をもてるということです。
消費者の皆さんにはぜひ、小さい林業をやっている、『キコリ』から木材を選択していただきたいです。この林業ってやっぱり、小規模だからこそできる技でもあるのかなと。
また、自分の木が使われるということは、山主にとって、自分の山の価値が再認識できます。だいたい今の山主は、自分の山なんてどうでもいい。価値がない、もう何もできないと思われているでしょうから。
皆伐するくらいなら、僕や、やる気のある若手に、託してほしいです。
こんかいADW白樺プロジェクトブースにあるスツールは、写真にある僕の2代目林家、風太の白樺でやりました。5歳(保育園年長)で2代目山主を意識しております。彼は今、きちんと山の価値を5歳児なりの理解をしています。
地域の自然環境を『所持』しているわけですから、もっと山主は責任をもっていただきたいと感じるとともに、新しい山との付き合い方ができるという、選択肢の幅があることを知っていただきたい。流浪のキコリが生まれたのですから。
2、傷つけない伐倒術。残すほど価値ある山へ。
大体の人に驚かれるのですが、僕はチェンソーと軽トラ(冬はモービル)のみを使って山の仕事をしております。※道をつけるときだけ小型のユンボを使います。
木をきりだす時はほとんど人力。それでいいんです。自分の力が自然に及ぶか及ばないか、その木を前にして判断しています。ダメなら無理しないというスタイルです。
このスタイルは、山を痛めません。重機を入れないので、地面に大きな跡はつきませんし、他の木にぶつけて傷をつけることもありません。
そして伐倒術。僕は正確な伐倒ができるのが自慢です。他の木にぶつけることなく、樹皮がきれいなまま、倒せます。状況によってはわざとかけて、そこからゆっくり倒すなど、欲しい方の材の取り方にできるだけ対応した伐倒技術があります。
白樺スツールの樹皮が綺麗なままなのは、この伐採技術があるからです!
こうした意識と技術から、残された山は、とてもナチュラルな状態で維持されます。とてもここで『林の業』をやっているとは思えないくらい、いわば『環境保全の見える化』ができている山が生まれます。
余談ですが、僕の山の作り方に、『間伐』という言葉はありません。一切間伐をしません。
細い木が欲しい方もいれば大きい木、曲がった木、変なこぶができている木、消費者(職人さん)はいろんな姿の木をほしがっています。多様な対応ができるため、僕の山に『劣勢木』はありません。全部が全部、優良木です。
そして残せば少しずつですが太っていき、さらに材積を蓄えてくれます。
今伐っている場合ではないし、僕には風太に引き継ぐ、そして300年後に完成するという盛大なビジョンがあります。
今伐っている場合ではない。のですが、それは寿命が長い木に対してです(ミズナラとかイタヤカエデとか数百年生きる木に対して)。
北海道は例外はありますが、多くの地域で見られる白樺がよく生えます。
白樺は、何らかの理由で更地となった場所に、いち早く生えて山を再生する『かさぶた』のような役割がある木です。また、木材以外にも、多様な用途があります(葉、樹皮、樹液など)。
この白樺は、寿命がだいたい人と同じくらいで、70年~100年くらいです。僕の山では70年すぎると、弱っている木は、芯が腐って幹の中心部に穴が空いてきます。
まぁ、白樺は、どういうわけか価値がないとされており、バタバタ倒れていても放置されていたりします。
キコリとしては、非常にもったないんです。
僕なりに考えている、北海道における白樺の価値。
a 北海道の森という印象が強く、観光に活かせる景観。
b 枝、幹、樹液、樹皮などほとんどすべて使える。
=多様な利用目的が、多様な人との繋がりを生み出す。
c 初期投資0の森(自然に生えてきた場合が多い。※植樹した白樺は別です)
d 約70年サイクルで伐期がくる。
自然の寿命に即した環境負荷の少ない林産物の生産ができる。
とくに『d』が、伐らないキコリに伐らせる理由です。キコリとして、腐らせては負けなんです。木の体力や状況を見極めて、最大限に成長した白樺を伐って活かしていくというチャンスが生まれました。これに関しては、『伐る場合』なんです。なので、一緒に買っていただける人も探します。
もちろん生物多様性を意識した上で、白樺の枯死木は大切です。ですからバランスは必要です。里山部では、作業上危険がない限りは、腐れきった白樺は、きちんと残しております。
こうして考えると、放置されて勝手に生えてきた白樺は、山主にとってチャンスです。地域に活かしていきましょう。しかし、皆伐はダメです。白樺が生えて、じっくり成長している最中に他の樹種の種がすくすくと育ち、白樺が終わった頃には別な木々が生える山になっておりますので、雑なことしてはダメです。山全体とその後まで考えて、活かしきってください。皆伐はダメです。
4、白樺プロジェクト
木を使う時、特にほとんどが、上流(山・キコリの存在)を無視している、いや違う。上流側の情報が下界にこない、下界も知ろうとしない・・・これがまだ、1次産業と2次産業を繋ぐ上での壁になっていると思う今の北海道。そこを透明化して一体となって進んでいるのが最大の特徴です。
いろんな木工イベントでも『板』から始まることが多いのですが、普通は『山』から始まるのが当たり前です。僕のイベントは絶対山から始まるのはそこに重点を置いているからです。山に入って木を伐って、、、だから大切に使える。何かを生み出したくなるわけです。
鮭の切り身が海で泳いでいる訳ないでしょうが、ということです。切り身から始まった場合は、せめてその海の様子とか、漁師の顔とか想いとかも紹介してほしいわけですよ。
このプロジェクトの大きな特徴は、家具職人さんの活かす技はもちろんのことですが、こうした上流側の人とタッグを組んで進めてきたことが非常に大きなポイントです。
さらに面白いのは、研究林とか、町有林とか、そういう属性の山ではなく、『民有林(私有林)』を使って進めてきたことも重要なひとつ。
これは革命的だと思っています。『身近な木』を対象にしているわけですから、誰でも、どこの地域できるような状況を意識してきました。旭川は森林面積全体の1/4である約1万haが民有林、そのうち約5千haが広葉樹林ですから、僕のモデルは、旭川の私有林5千haの方たちには参考になると思います。※白樺じゃなくても。
とはいっても、こういったプロジェクトには、付加価値をつけるため、必ず材の出口側の人間が必要不可欠です。それは職人さんだったり、デザイナーさんだったり、研究者だったり・・・。だからキコリだけではできないプロジェクトです。
でも!
民有林・キコリという属性が無かったら、ここまで、意味のある時代にあったプロジェクトにはならなかったと思っています。山主の皆さん、今一度、木、1本から、きちんと見直してみてはいかがでしょうか。僕は全部伐ってる場合では無いと思います。
木と暮らしの工房、鳥羽山さん。 樹凛工房、杉達さんの工房にて。
5,消費者のみなさまへ
森は大切。でも護り方、使い方、何をしたらいいかわからない。
こうして、新しい木材、家具選びの選択が旭川ではできるようになりました。是非正真正銘の山(森)から始まる家具づくりを応援してください。
小さい林業があるってことを知っていただきたい。
まずは、『この木はどこの木』という意識をしていただけたら。そしてその世界にハマっていただいたら、地域で頑張る『推しキコリ』から買うようにしていただきたい笑
本当は、伐られたあとの山がどうなっているのか、きちんと見えた方がいいのですが、里山部以外でそういう林業地をオープンにしている場所ってあまりないですからね。
『推しキコリ』×『推し森の木』×『推し職人』の、全部好きな人たちからの家具づくりなんていうのも、可能になったという訳ですね笑
こうした、本来当たり前の山との付き合い方を持続させていくための意識変化が大切だと思っております。
いつも言ってますが、キコリと二人三脚が必要です。
キコリ側も、皆さんに選択していただけるよう、さらに精進していく必要があります。
6、最後に
短い時間で、それぞれの立場の方が情熱をもって進めて、今回ADWでお披露目することになった白樺プロジェクト。関係者の皆様とご一緒できたことを誇りに思います。
とくに、木と暮らしの工房の鳥羽山さん、樹凛工房の杉達さん。里山部の白樺を使っていただきありがとうございます。デザインで悩んでいたところから、実際に丸太が板になり脚になり・・・と加工されていくところを目の当たりにして、こんなに入り口から、人の愛を受けとり幸せそうに加工されていった白樺は見たことないなと感じていました。しかし、非常にご苦労されたと思います。ありがとうございます。
☆里山部はやっとシーズン1、終了しました!3年かかったシーズン1!
僕は昔、木工職人の友人が『家具に使われる木は“森”から来て欲しいな』という話をしたことがずっと気になっていました。僕は家具材って、森ではなく“山”から来ていることがほとんどだと思ったからです。
※これは僕個人の勝手なイメージですが、山=林業地。山主の財布が豊かになる場。森=人の心が豊かになる、憩いの場。
でも今回、里山部のような山でも森でもある木から、ちゃんと家具ができたこと。これに対して、『森から家具材を届けることができた』といえるようになりました。
里山部は、一つのゴールをしました。だからシーズン1終了です。
これから、道つけもできるようになり、さらに加速した新しい風を吹かせるシーズン2突入です。白樺プロジェクトも加速させていきます。
シーズン2は、もっと消費者の意識向上のために、山・森に来て頂きたいと考えています。そのために、里山部では近々ぬるいプロジェクトを開始させます。
西川市長を山に呼ばないとなぁ笑